アフターヌーン・ティ


「僕、レーズンのやついらなーい。ユーリ、チョコのちょうだいヨ。」
「嫌。」
「えーーーーっケチケチケチーーーー!!何だヨーさっきつまみ食いした時オレンジいっこ多く食べてたじゃん。」
「あ゛ーーーっあんたらやっぱり!!いつの間につまんだんスか!!どーりで材料が足りないと、」
「スマイル貴様、口が軽すぎだぞ!」
「もー、残りのオレンジマドレーヌ、全部俺のもんね。」
「えーーーーっ!?」
「スマには俺のチョコチップスコーン、交換してやるッスから…。」
「意地汚い上に品が無いなお前ら。お茶の時間というものはもっと優雅に過ごすものだ。」
「とってつけたように言うなッス!!…そういうユーリの手がなんでラズベリークッキーにかかってんのかが俺には全く判らねーッス。」
「ん?これは私の分ではなかったか?」
「違うッス!!それ三つしか作ってねえッスもん!!俺、まだ食べてない!!」
「はっはっは、年長者は敬え馬鹿犬。」
「食べんなーーーーっ!!」
「こういう時だけボケじいちゃんだよねぇ…。あ、アッシュお茶ナイヨ。」
「え、もう!?ハイハイただいま。」

 大ぶりの皿が繊細な仕組みの針金細工で三段に重ねられ、一口サイズの菓子とカフェ・サンドが綺麗に並ぶ。 紅色のお茶が小さい青い花の散った白い陶器のティ・カップに、豊かな湯気と香りとともに注がれて。 白くてまあるいティ・ポットは、パッチワークの愛らしいティ・コゼを被される。
 口にすればとろける甘さのカスタードクリームとブラックベリーの酸っぱさが舌に広がる、香ばしいタルトレット。 チョコレートでコーティングされたレモンピールのトリュフ。粉砂糖やココアの粉で化粧を施された小さなお菓子たち。
 正式正統、英国式アフターヌン・ティに欠かせない狐色のプレーン・スコーンには、なめらかな生クリームとクロテッド=クリームはもちろん、 摘んだばかりのベリージャム、少し意地悪な苦さのオレンジ・ママレード、城主自慢の薔薇で作ったローズジャムなどが 少しずつ入った豪華なジャムテーブルも。

「今度はパイも食べたいな。大きくて生地が香ばしいのがいい。」
「カリカリに焼いてネ〜。」
「いいッスねぇ。チーズケーキ焼いてNYスタイルにしてもいいッスねぇ。」
「あとねー僕、お昼に焼きたてベーグルが食べたいなぁ。」
「あ〜それもいいッスねぇ。最近チーズ屋さんに顔出してねぇし、行きたいなー。」

 お茶はたっぷりお菓子はちょっとずつを沢山。それでお腹がぺこぺこだったなんて、これを幸せと言わずに何とやら。 まさに一口運ぶごとに幸福を噛みしめている気分。
 久しぶりにまとまった時間のできたDeuilは貴重な休息を、甘いお菓子と花のような紅茶の香りでいっっぱいにして過ごしていた。 過酷なスケジュールも、忙殺されることの苛立ちも暫し忘れて、 胸いっぱいにあたたかな空気を吸い込めば、隣の仲間の顔に自然と笑みが零れていてそれを眺めて。 今、この瞬間、悪いものは何も無い。

 優雅さを体現したような吸血鬼が、紅茶を飲み干してうっとりとため息をつく。
 食べカスを口の周りに沢山こさえた透明人間が、新しいお菓子に目を輝かせる。
 そうして狼男は自分の作り出した満ち足りた空間時間に、これでもかという程満足そうに笑むのだ。

 何て楽しい時間。これだから、午後のお茶会はやめられない。










アンケート御礼リクエスト「Deuil仲良し文章」。気負わずに書けました、ありがとうございます!!
気負わずに書きすぎた感ヒシヒシしますが…(汗。
ちなみにお菓子作りが好きな訳でももちろん得意な訳でもないので、どこかしらに間違った描写が入ってることでしょう…。

05.06.01


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