躍動感と生命力と、うだるような暑さの後に待っているのは、何故だかとても切なくて、不安定な毎日。

 台風がいくつかやってきて、夕陽がやけに綺麗な日があって、宵闇にカナカナカナ、と虫が鳴きだしたら。 これにそこらの歩道でセミでも横たわって、最後の力を振り絞りながら花火のようにぐるぐる回っていようものなら。
「あー…夏ももうお仕舞いッスねぇ…。」
 家政婦犬は冷蔵庫に残っていた最後の西瓜を出しながら言った。 丸のまま出すと吸血鬼が面倒くさがるのでくりぬいてサイダーに入れて、今夜のデザートはフルーツポンチにするつもりだ。
「そうだな。」
 閉めようとした扉を押さえられたので振り向いたら、空のグラスを焦点も合わない程目の前ににゅっと突き出され。 苦笑しながら扉裏のポケットからポットを出して、作り置きの麦茶を注いだ。 最近自分に隠れてアイスの一気食いをして腹を壊したばかりの彼だから、氷はわざと入れないでおいた。

「ユーリ、腹減ってない?夕飯まで待てそうッスか?」
「うむ。」
 ごっごっごっ、喉を鳴らして麦茶を飲み干していくユーリの、反らした白い首ばかり目についた。
 それで、アッシュもごくり、と唾を飲み込んだ。その音が静かなキッチンに響き渡る。 ユーリはお構いなしに麦茶を飲んでいて、ガラスのコップに浮いた結露が彼の白い指を濡らして、ぽたりと落ちていった。 からからに乾いた喉を潤すために唇を舐めてみて、その、塩の味に、嗚呼、乾いているのは喉だけではないと、アッシュは思った。
 ふぅ、と麦茶を飲み干した吸血鬼はコップを犬に返すべく顔を向けた。 犬は何だか惚けたようにぼーっとこちらを見ていたので、一応声をかけてみた。
「……おい。」
「え、…ハイ?」
「…………扉、閉めんのか?冷蔵庫、」
「ぅあ、っと、いけね!」
 ぱたん、何かに蓋をするように冷蔵庫の扉を閉めて、犬が頭をぶるぶると振るものだから、 ユーリはそれだけで、ハハ〜ン、と彼の思考回路を大体読んでしまった。 その読みが間違っていなかったことは、

「…もう少し涼しくなってからな、」

告げた途端振り返って、いやだのそのだの意味を成さない呟きを繰り返したアッシュの赤い顔が、物語っていた。
 この調子ならばまだしばらくは、当分暑さの続きそうな、うだるような夏。








仕事がごっつキツかった2006年夏、それでもまわるカウンタがありがたいやら申し訳ないやらで、
戯れにリクエストなど募ってみた。
ようやく書けた時には季節が一巡りしていたよ2007年8月17日。
リクエスト「アスユリで晩夏」、ありがとうございました!!

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