尾行されているということには随分前から気付いていた。 さて、どこでマいてやろうか等と考えているうち、適当な場所も通らぬまま自宅に着いてしまった。 思いの外身軽な相手に、部屋の前まで侵入されちゃ適わねぇと、早足で階段を駆け上がる。 登っている途中でポケットからキーホルダーを取り出しておいて、 ドアの前に立つや否や鍵穴に鍵を突っ込んで乱暴に回すと、それは難なく主を迎え入れた。 バタン、少々大きな音をたててドアを閉める。 後ろ手で錠のつまみを捻った。 「ふぅ…。」 一息ついて、やれやれと首を振る。どうやら尾行を振り切ることに成功したらしい。 靴を脱いで帽子とヘッドフォンを定位置に放り出す。 次いで上着をソファにかけると、洗面所で手を洗って、さて湯でも沸かすかと台所へ移動する。 ヤカンを火にかけ、その火を使ってタバコを一服。 換気扇を回して、吸い込まれる煙の行方を探った。 引き寄せた灰皿に煙草を休めたついでにふと気付いて、上着のポケットに入れっぱなしだった携帯を充電器に収めた。 閉めっぱなしだったカーテンが目に付いて、 半分だけでも夕暮れの陽射しを取り入れてやろうとシャッと控えめな音をたてて開けてみればそこに。 「…まいったな。」 ベランダまで侵入されては仕方ない、自分の負けだろう。 カラカラカラ、静かに窓を開けて、枠に爪をたてていた追跡者を潔く迎え入れた。 侵入者に格上げした追跡者は、気まぐれ者独特のすり寄り方でするりと足元に絡みつく。 指先で適当にあやしてやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。 腕に抱き上げたそれはかすかに夕日の匂いがした。 「御宅の猫を預かっている。返して欲しくば200万用意しろ…っつったら、あのサラリーマン、金払うと思うか?お前ぇ。」 クリーム色の猫は、知るもんかとでも言うように、なー、と小さく欠伸を返した。 ****************** ホントは玄関の鍵が開いていて押しかけ女房(…)なマコトが迎えてくれるはずだったのですがうまくいかんかった。殺し屋と猫セット。 ある意味これはししゃけ…ゲフンゴフン。こわやこわや。 サトウさん…泣きながら探しまくってるところに脅迫電話ですか…(笑)。 05.04.22 |