イイモノでもイタズラでも、君がくれるなら何でも。

「Trick or treat!?」
 精一杯の格好良さと可愛さをこめてびしり、と人差し指を突き付けて発音したが、鼻で笑われた。 これでも発音上手ね、と学校の先生には誉められたことがあるんだぞ、中学の頃だけど。 KKの家の玄関で、サイバーが用意してくれた紺色のローブは気まずく揺れた。

「Wao!scared…」
完璧な発音の持ち主はそう呟くと魔女の腕を引いて家の中に招き入れると、ちゅっ、と頬にキスをして、
「…悪ぃな、今甘いもん切らしてっから、」
これで勘弁な?人の悪そうな笑みで囁く。 ハロウィンの夜の魔物はなおも食い下がって頬をふくらませた。
「ダメダメ、勘弁してやりません。もっとちゃんとイイモノちょうだい?」
「あぁ?」
KKが心底面倒臭そうな声を出して、
「ちょっと待ってろ。」
奥へ引っ込んで行くのをマコトは勝手について行く。一応小さくお邪魔しまー す、と呟いて。

「オラ、これでもくらえっ!」
 顔にぱしんっと、固くてがさがさしたものが、当たる。 マコトの広めのオデコにジャストヒットしたのが嬉しかったのか、顔をあげたらやたらにやにやと笑うKKと目が合った。
「ちょっとー!ラーメンはお菓子じゃないっての!しかもインスタントの乾麺だし!」
「細けー事言うなよなぁ。」
「せめて茹でろよ、」
「何お前、夕飯食ってく気か?」
「もち。」
むしろこの時間に俺がアンタの家にきて食事もせず帰ると思ってんの?と言われ、 それもそうかと納得してしまうあたり、改めて自分の立場の弱さを自覚するKKだった。

 結局即席ラーメンを二人並んで食べつつ、甘さのかけらもない万聖節の夜になるのかと思ったら、
「それでさぁ、悪いんだけど…、」
と、魔女が切り出して言うにことには。
「今夜泊めて?」
 これはハロウィンの夜に相応しい「何かイイモノ」なのだろうか、 と突然の申し出に期待をこめた目で振り向くと、 自宅が高校生というある意味最強の魔物の巣窟になってしまっただの云々、 つまりはどうやらただ、避難したいだけとのこと。 ぬか喜びに漬かる間もなくあらぬ方向の甘さへも、明日仕事だからとしっかり釘を刺され。
「マコト、Trick or treat…」
それでも執念深く食い下がって、魔法の言葉をかけてみると。

「うん、わかってる、てゆか、ごめん。」
アンタの「何かイイモノ」を甘く見ていたかもしれない。 と、魔女が紺色のローブの下から取り出したのは、やっぱりインスタントラーメンの袋だった。 ほんの少し救いがあることは、今食べたのは醤油味でマコトが持ってきたのは味噌味だということだろうか。
 ごめんごめん、へらりと笑う恋人は憎らしいと同じくらい相変わらず愛らしい。 KKは、ハロウィンの夜に魔物を家に招き入れてしまったことを、今更ながら少し後悔していた。

 大人しく頂戴してしまうか、ラーメンを却下してイタズラに走るか。 これは何の拷問だろうかと、KKは考えるのだった。どちらにせよ、とりあえず叫んでいいだろうか。
「Give me somethin’goodies!」


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