平日休暇


全部が本音で、全部が建前だった。




「…あのさ。」
「ぁんだよ。」
「うん、まぁ、Kが休日の朝っぱらからキチンと服着て出掛ける準備万全なのは、珍しいよね。」
 玄関のドアが開けられた途端の硬直。いつもと違う姿に迎えられた違和感。 休日の朝のKKは俺が訪ねて行くと、歯ブラシくわえたまま寝癖頭でドアを開ける筈だ。 間違っても靴履いてヘッドホン装着したままバツの悪い顔したりしない。 何か企んでるならもっとニヤニヤ楽しそうな顔してる筈だし。

「あ〜…あのなマコト、」
「火曜日ってのはさ、」
 泳ぐ視線を、間髪入れずに捕まえて覗き込む。 こういう時の俺の勢いに素直に呑まれること自体、後ろめたいことがある証拠であって嗚呼…。俺は内心で嘆息する。
「…おぉ。」
「世間一般では平日であって社会人は仕事があるはずだけどさ、 俺は美容師で定休日で、つまり俺にとっては日曜日みたいなもんですよね。」
「…おぅ。」
「そんでもって不定期なお仕事のMr.KKも、平日がお休みになることがあって、 今週の火曜は休みだって、言ってたよね。」
「…………。」
「どこへ行こうとしているのかな?」
「…スマン。」

 まぁ、つまり、仕事が入ったからこれから出掛けなくてはいけないと。そういうことだとはすぐに知れたけれど。
「ね、もしかしてついて行っちゃ、」
「駄目。」
万に一つの可能性も即座に否定されて、俺は瞬時に頭を回転させなくてはならなかった。

 世間は平日、俺の予定は真っ白。 ここでごねるようなことだけはしたくないが、離れてしまうのも嫌だった。
「もー。じゃあ俺がここにいるのは問題ない?」
「あ?帰らねーのか?」
「帰って欲しいわけー?」
おじゃましまーす、と小さく言って、勝手と可愛らしいわがままを装いながら敷居を跨いだ。
「ぁー……。」
この男はいつからこんなに歯切れが悪くなったんでしょうね。前はもっとスマートだったような気がしますけど。 その理由は知っているから俺はくすぐったい気持ちになる。

「ろくに寝てないんだよー心置きなくゴロゴロしてまーす。」
 勝手にあがって勝手に上着を脱ぎ捨てて、家主のベッドへダイブ。 ばふっという音と共に心地よい弾力が俺を受け止めた。 ろくに寝てないというのは方便でも何でもない。 昨夜は定休日の前だというのに、閉店後、断りきれずに追っかけの女の子達に付き合っていたのだ。 家に帰ったら帰ったでサイバーと格闘技ごっこなんてしちゃって、パルの頭の皿が飛んで…何にせよ俺はヘトヘトだった。
 大体、前日から泊り込んでいたらこんなことにならなかったのに。 疲れた頭が考え始めた栓も無いことに栓をするよう、ふわふわの枕に顔を埋める。 午前中特有の頭の痺れが、直ぐにでも夢の世界へ俺を連れて行ってくれそうだった。

「家捜しすんなよ。」
 Kがキーホルダーから鍵を外している音が聞こえる。 寝返りをうって、Kを見上げながら突っ込みを入れる。
「って、この家、探す程物無いだろ!せいぜい…………AV?」
「見んのか。テレビ横の棚、二段目の奥。」
「いや、聞いてないし!」
「…小学校の卒業アルバムはありませんヨ、残念ながら。」
「はは、いいよ平気。大丈夫だから。」
「悪ぃな。」
「あんまり謝り過ぎると怒りだすよー。」
「ったく…手に負えねえ。」
「出掛けに良いもの拝ませてあげようか。」
「あ?」
よいしょ、と身を起こして枕を抱えた。うん、この角度ならこのポーズが丁度いい。

 「俺はね、これからKの匂いの染みこんだこのベッドで想像するんだ。 Kが早く帰って来て、匂いだけじゃなくて俺を抱きしめてくれないかなーって。 そうやってたら一日なんてあっという間に過ぎちゃうんだよ。ね? だから気にしない、で…って無視ですかっ!! 人がせっかく滅多に見せないカリスマ仕様サービスしてあげてるのに〜!!」

「あーハイハイ。」
見てられないという顔をして、KKは上着のポケットから煙草を探ったりなんかしている。 格好つけたがるのは、最近の俺達のちょっとした流行。
「ちぇー。やっぱりストレートに手を取って「指…綺麗だね…。」の方が良かったかなー。」
「やめれ、照れるから。んじゃ、出掛けるわ。」
ふ、と息がかかったと思ったらおでこに軽いキス。 後ろ頭を掴んだ手に髪を絡まれても、ベッドに染み付いたKの匂いに抱き込まれても、 ここで腕を回してはいけないのだ、社会の一員としては。ましてや信用第一の何でも屋さんに遅刻させるなんて。
「……早く行けよ。」
「…おぅ。」
脛を軽く蹴飛ばして追い出してやる。名残惜しくて結局、玄関までついていってしまう。

 「あー、ちょっと待って、洗剤の買い置きは、」
「洗濯機の上の棚。なんだ、洗濯してくれんのか。」
「だって暇じゃん!掃除、するとこないし。」
「ありがてえ。溜まってんだ。昼過ぎには帰るから。」
靴を履くKKを見ながら、何だかこの構図は、間違いなく夫のお見送りをする新婚の妻みたいじゃないか?と思い当たる。 普通に照れるじゃん。
「じゃあな。」
ちゃっ、と玄関ドアを開けた背中に、持てる能力全てを費やした可愛さを装った声で告ぐ。

「行ってらっしゃい、アナタv」

ズダダダダ、と外階段を大きなものが滑り落ちる音が聞こえた。 今度こそポーカーフェイスを崩すことに成功したけど、「行ってくるよ、ハニーv」を聞き損ねたと、ドアを閉めた後で思った。



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マコトきもい!!マコトきもい!!マコトきーもーい!!!!無理無理!!!キザというかキモ!!!
スミマセンすみません…ちゃんとした気障兄さんを書けるよう、出直してきます…。

しかも折角「少し賑やかなくらいが〜」ってリクエストして下さったのに、やたら静かでスミマセン!!(平伏し)
というか、世間は平日だけどマコトは休日です…ね…。リク曲解が癖でして!(汗)
アンケート御礼リクエスト「平日のKマコ」でした!!

05.04.30



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