乗っかって覗きこんでみると改めて気付く、自分と相手の顔は鏡のように本当によく似ているということ。 そして同じくらい似ていないところにも気付いてしまう。 似合いすぎている明るい髪の色、あどけない表情、隙だらけの部屋、ストレートな優しさ、 満ち足りた健全で健康な陽の当たる場所を歩んできた者独特の笑顔、隠し持った粘り強さと、海のように深い、愛? …ってのは言い過ぎか、でも包容力はピカ一だ。身内のひいき目を抜いても、目の前のマコトはかっこいい奴だと、マコトは思う。 同じ名前酷似した姿形を持っていても中身は全く違うもので、似ているところと言ったら勝ち気で頑固な性格くらいか。 ああ、あとコーヒー好きなところも。 深夜0時をまわった頃、久しぶりに訪れた従兄の家は相変わらず驚く程簡単に自分を受け入れ、つまり二階の窓からの侵入を、許した。 そう、陽のあたる場所では何一つ勝てる要素は無くとも。部屋に不法侵入しても、 寝転がっている上に覆いかぶさって顔を近付けても、一向に気が付く気配も無いので半開きになっている柔らかそうなその唇を、舐めてみる 。 栄養不足でガサガサの自分のそれとはまったく違う弾力。平和そのものの表情がようやく微かに歪んだのを見て、マコトは笑った。 青いつなぎに随分可愛がられているようで。思わずほんの少しだけ、親愛の情を示す程度の続きを楽しんだ。 「何も殴ることないのに。」 「ごめーん、条件反射でさー。今日はお客さんいなかったの?」 「ばーか、俺に客が捕まらない夜なんてねえよ。気分がノらなかっただけー。理由なんてない。」 「わー相変わらず凄い自信。ていうかまた痩せた?」 裕福ではないにせよ特別家庭が荒れていた訳でもなく、ただごく小さい頃から誰かと一緒にいるのが嫌で嫌で、 とにかく一刻も早く家を出たかったと言う。 自分の力で生きていく。その目的を立派に果たしている従弟をマコトは尊敬していた。 そして、同じくらい心配もしていた。だがいつだってその心配に返されるのは沈黙と、憎たらしくも思える笑いだけだった。 「…ホント久しぶりだね。」 トゲだらけの硝子細工、なんて言うと相変わらずロマンチストだなとか言われそうだけれど、少し前までの彼はホントにそんな感じで。 触れたら痛い、上に壊れそう。そんな感じで。 「あの頃に比べて随分丸くなったよなぁ…。今は何か猫みたいだねぇ。」 真夜中の従兄の台詞は脈絡や意味が吹っ飛んでいることが多かった。 それが純粋に寝呆けているからかどうかは緑の髪のマコトの知ったところではなかったが。 「んな可愛いもんに例えるな!犯すぞ、」 「ヤダ。マコちゃん病気とか持ってそうだしぃ。」 「失礼だな、そんなヘマするかよ!」 「痩せたけど、マコちゃん綺麗になった。」 だがこの従兄からは歯の浮くような台詞がポンと飛び出すということは、緑の髪のマコトは知っていた。 微かに鳥肌が立つのを感じながら、たてつく。 「マーコートー…寒いっ」 「あ、ごめーん。だってマコちゃん入ってきてから窓開けっぱでー。」 「そういうボケもいらないから。」 どうにもこの従兄と喋っていると疲れる時がある。 それを知っていてもこうして足を向けてしまうのは、多分疲れさせてもらうのも目的の内なんだろうと、自分の行動を分析していた。 侵入者のマコトはうなだれて膝に抱えていたマグカップを床に置く。 コーヒーを飲む時間帯など気にもしない程には、二人ともカフェイン中毒者だった。 だから、彼が来るといつもオレンジ色の髪のマコトは、熱いコーヒーをいれる。 「もう一杯いれようか?」 「いらない。もう寝る。」 そんなコーヒー一杯を飲み干す間のお喋りを終え、仲の良い従兄弟同士はひとつのシングルベッドに横たわる。 狭いが年に数回なら耐えられなくはない。 ましてやいつもオレンジ色の髪のマコトの横にいる男と比べて、むしろマコト本人よりも、従弟は細っこかった。 「………相変わらず、細い。…ねぇ、ちゃんと食べてる?」 「あーマコト抱き心地いいなーぁ。」 「ちょ、狭いんだからあんま寄るなっ」 この細身から自分より怪力が出てくるのだから驚く。 衰えてないのは安心だが力で勝てないのは男として口惜しい。 相手の方が年下なので尚更だった。力のこもった腕は振りほどけず、抱き締められるがままにしておいた。 「気持ちいい…いー匂い。」 「……マコちゃんこそ、香水変えた、の?違うか。何か違う匂いがするっていうか…、あ、別に臭いって言ってる訳じゃないよ。」 「…………体臭なんて変わるもんだろ。」 「新しい人の匂い、なのかな?」 「…………さぁね。」 「最近ご無沙汰してたのはその人のせい、なのかな?」 この落ち着きぶりを見るといい人のようだけれど。 従弟に特定の相手が見つかるなど本当に久しぶりのことではないか。 彼の仕事柄、喜ばしいことなのかは置いておいて、ただ休息所を提供するだけの傍観者としては、無責任におめでたい。 「…………さぁね。」 「ていうかどんな人!?女の人?男の人?優しい?一目惚れ?ねえねえっ、」 「聞いてどうすんだそんな事っ!会う訳でもなし……」 「いや、従弟がいつもお世話になってます、ってご挨拶するかもしれないし。 つーか俺の可愛いマコちゃんがこんなに痩せてんのはどーいうことか、問い詰めてやろうかなー。」 「ばっ、絶対ヤメロ!!!っ無理!無理だから!!ぜってー駄目だ!いいな!?絶対俺の縄張りに入ってくんなよ!? マコトみたいなぽやっとした奴、顔似てるからって俺と間違われたら何されるかわかんねぇからな!?近づくな!判ったな!?」 「判ってるよ。近付かないから教えてよー。」 「頼むよマコト、本当に危ないんだからな?それと雑誌とかテレビの露出、もうちょっと控えれば? 別に伯父さんの店、宣伝困ってる訳じゃないんだろ?この前俺が間違えられたし。」 「じゃあ質問をみっつに絞ります!」 「聞けよ人の話を!」 「わかってるってばー。じゃあひとつ目、うーんと、男の人、だよね?…何やってる人?」 「なんで男だって判んだよ。」 「乙女の勘v」 「…………おやすみなさい。」 「あー寝るなっ!ねえ、やっぱ稼ぎ良いんでしょ?何者?」 「そりゃあ、悪くないみたいだけど。」 まさかお前のダーリンと同じ職とは言えず。 こちらは青いつなぎを知っているのに、向こうは黒いつなぎを全く知らないようなので。 何かの偶然で関係という名の糸が繋がるまで、マコトは待とうと思っていた。 それは従兄を危険に晒したくない気持ちの表れに、他ならなかった。 「じゃあどっちが先に好きになったの?」 そんなマコトの思いも知らず、能天気に従兄は質問を続けた。マコトは胸中で嘆息する。 首の位置をずらすと闇に緑の髪が艶めいた。 「向こうに決まってるだろー。それに俺は好きって訳じゃねぇよ、別に、」 「ふーん、でも一緒にいるんだね。」 「ほとんど監禁状態っつか……。」 「ナヌ?!」 「あーいやでも、こうやって好きに外出られるしさ。質問終わりか?」 「…その人のこと愛してる?」 全身に鳥肌が立つのをはっきりと感じながら答える。 「だから好きじゃねぇって、」 「好きと愛してるは違うから。」 「愛してもねぇ!愛なんかあるかっ!」 「ふぅ〜ん。」 「もう寝るぞ!」 「ハイハイおやすみ。出てく時俺起こさなくていいからね。」 「起こしても起きないだろ。」 「ん………たまには…連絡してからおいでよ。昼に……伯母さんも心配してる…、」 「判った。」 「おやすみ……。」 「おやすみ。」 「…………やっぱり結構本気なんでしょう、マコちゃん。」 闇からの問い掛けは、寝たふりで独り言に変えた。どうせここは一時の避難所に過ぎないのだから。 リクエスト「2Pマコト」。ありがとうございました。 2Pマコトというかマコ×マコ…?両方ともマコトにしてしまったために訳わからなくてスミマセン。 一応見分け方としては従兄=1P、従弟=2Pです。1Pが年上さん。 口が悪いのが2Pです。メチャメチャ喧嘩っ早いです、強いです。 半分裏の世界の住人です。年下だけど早いとこ社会に出ちゃったので大人っぽいの。 ホストの経験アリ、今は身売りをして生活してたようです(我ながら凄い設定だ)。男でも女でもOK。 設定詰め込んだだけのつまらぬ文で申し訳ない…。 また、ちょくちょく書けるといいな、コイツ。 |