学帽のツバが死角になってよけそこねた拳が、眼鏡のフレームを少し歪ませた。 畜生と呟くと世界なんて壊れてしまえと本気で思った。 滅茶苦茶に暴れても羽交い締めにされて息をすることも満足にできないでいる。

 帰り道、タロウはナカジの手を取ってこう言う。
「大事なんだから、もう殴っちゃ駄目だよナカジ。」
荒れ放題な空気で響く音だからこそ心地良い。愛しそうにゆっくりと、傷だらけの手をなでる仕草が、陽も落ちて殺伐とした路地に浮く。
 で、ナカジはタロウの軽薄そうな頭をゴンと殴った。




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タロナカ。
…ワンピのサンジさんみたいにミュージシャンは手が命とか言って、蹴り技に目覚めたりして。

05.10.20


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