一体この音のエネルギー源は何なんだろうか。
一体この音は何処から出てくるのだろうか。
音楽室の白い防音扉によっかかってタロウは待った。
防音、そんなものその音の前では何の役にも立たない。
放課後の校舎は騒然としていて、目の前を通り過ぎる級友と一言二言交わし、
女子は待ち惚けしている自分の姿に感じることでもあるのかおやつなどくれて、
最後にはひらひらと手を振って、また明日〜と行って見送った。
誰も彼もが自分と、それから扉の奥にいる彼の前を通り過ぎていく。
立っているのが段々かったるくなって、ぺたりとしゃがみこむ。廊下は冷たかった。
ギターの音がビィンっ、と不愉快な悲鳴を上げた後一旦止んで、
ああこれは弦が飛んだなぁ、これじゃ今日はあんみつはおあずけかなぁ、
と思っていたらまた弾き始めたので、ホ、と安心して扉に耳をくっつけた。
掠れそうな歌声が聴こえる。
一向に止みそうもなくて、いい加減帰ろうかなぁと思うけれど、
さっき貰ったうまい棒がまだ二本あるからそれ食べても駄目だったら帰ろう、
そう思って、
それからたっぷり二時間半が過ぎた。うまい棒二本を食べるには長すぎだ。
ガッチャン、重厚な防音扉のノブを回すとずるりと重たくて、それは防音の所為だけではなかった。
足元にごろーん、と転がった人間を見下ろして、流石のナカジもギョッとして一瞬、固まった。
むにゃ、と呑気に半開かれている口元を認めて、フン!とばかりに下駄で踏みつけた。
にぎゃだの、ぐわだの、踏む度に飛び出す呻き声も綺麗に無視して、ナカジは三歩半で廊下に出た。
で、そんな所で何してやがった阿呆タロだの、
授業終ってからずっといたのか阿呆タロだの、
何で音楽室に入ってこない馬鹿かお前は阿呆タロだの、
そのヘラヘラした顔がムカつくんだよ阿呆タロだの、
つーか口の端にうまい棒のカスついてんぞ阿呆タロだの、
なんでいつも待ってるんだ誰も約束なんてしてないしウザイんじゃキモいんじゃボケ阿呆タロだの、
最終的には自分でつけた癖にくっきり顔と背中とふくらはぎに残った下駄の痕にまで文句をつけて、
帰るぞ阿呆タロ、と言う頃には彼らは下駄箱から出した靴に履き替えたところだった。
あんなに四六時中そんなに何もかも世界中に腹を立てて、疲れないのかなぁ、とタロウは思う。
怒る、という行為に相当の体力気力を使う自分にはとても真似できない。
本当に、何に対してそんなに怒っているんだろうと、
思うほどナカジはいつでも怒っていた。
怒っていない時を探すのが難しいくらいだった。
その怒りを前向きにエネルギーにする術を、彼に与えてくれたあの楽器に感謝する。
お陰でどれだけ彼を怒らせたことか。
変えて歌っていけるならば。生きていけるならば。
「ねぇねぇ、あんみつ食べに行こう。」
彼が甘い物好きじゃないと知っているけど。俺は大好きだからね。
ところてん食べてるナカジの前であんこ大盛りの特大クリームあんみつと砂糖入りの抹茶ミルクを食べるタロウ。
不思議と彼らは彼らなりに幸せであるということ。
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ストーカー待ち惚け犬タロ。と、偏屈者ナカジ。
…だからどっかおかしいってこのムラジナカジ;
どうやら幼馴染設定が好きらしい。
05.11.10
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