白銀
「うっ…わ」
白い。
光ってる。
…綺麗だ。
「ねーユーリ、すっごいッスねー。」
「ああ…。」
真冬の月にみとれる、貴方の横顔の方が白くて儚い気がした。
何気なく見上げたビルの向こうに、清浄な白い光を放つ満月。
思わず目をつむって、体を駆け抜けた衝撃をやりすごす。
ソロソロと、片目ずつ開けて再び満月を見ても、何ともない。
満月で変化しない狼男ってのもどんなもんかと思うが。これも地球で多くの夜を過ごすようになって会得した技なのだ。
送りの車を待つ間の、つかの間の二人きり。
こんなおいしい深夜に、犬扱いされるのはちょっともったいない。
「……だな。」
「え?」
「冬は空気が澄んでいるから月が一層美しい…と言ったんだ。」
月より貴方にみとれてました。なんて言ったら月より冷たい視線を寄越されるのは判っていたが。
フンと拗ねたように空に浮いたのには驚いて、
「ちょ…ユーリどこ行くんスか!!もう車来るッスよ!?」
見上げると彼はうまいこと満月を背にしていて。
しまったと思ったのと、ちゅ、と軽いキスをされたのはほぼ同時だった。
「―――!!!」
「クックックッ…」
ぎゃー。と叫んだつもりの声はキャイーンとか何とかとにかく情けない遠吠えに変わっていて。
「アッハッハッやはり月に一度位はこの姿を拝んでおかなくてはな!!」
急に視界に入った満月と、キスしてきたあなたと。
「…さて、帰るぞ?」
機嫌の良くなった彼にふんわり抱き上げられた。
(飛んで帰るんスか、アンタさっき寒いから嫌だって!!
せめて一言残すとか!!だからdeuilは気まぐれだって言われるんスよしょっちゅう!!)
畜生かなり修行したのになぁ、なんて…悔しがっても当分姿はこのまま叫ぶ言葉もワンワンワーン。
「あーハイハイ月が綺麗だなぁ。」
小さくなっていく送りの車にごめんなさいと、せめて小さく手を振った。
真冬の満月と、白い肌のユーリの横顔。
どちらも近くてとてもまぶしかった。
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