最近、マコトはよく眠る。

「ぐー。」
 うつ伏せ気味の顔に流れ落ちた前髪、広めのおデコは全開だ。 睫毛は長いし睚は綺麗につり上がってるし鼻は上向きの、生意気そうな別嬪顔がそれでも取っ付き易いのは、 このチャーミングで愛嬌ある額のせいじゃなかろうかと、思いながらMr.KKは軽いデコピンを繰り出した。

 最近、マコトはよく眠る。
 仕事が終わってやれ夕飯一緒に食べようだの観たいDVDがあるだの、何かと理由をつけてマコトが自宅へ押し掛けて来ることにも慣れ。
 そう、慣れたのだ。きっとコイツも。

 この前はKKがシャワーを浴びている間にベッドへ潜り込んでいた。 夕飯が出来上がってキッチンから振り返ってみたらソファで沈んでいたこともあった。 今、ほんの少し目と会話が離れた間に、マコトはダイニングテーブルに突っ伏して寝息をたてていた。
 最近、マコトはよく眠る。
 本人は隠しているつもりらしいが、KKの自宅のドアをくぐる時のへらりとした笑顔が日に日にくたびれきている。 出会って間もない頃体力には自信があると言ってはいたが、今は仕事が洒落にならない程忙しいらしい。
 しかしKKはそれだけが理由ではないことをよく知っていた。何しろ一番の原因を作っているのは彼なのだから。

 仕方ない、今夜は、今夜こそは早目に解放してやらにゃ。
 すぅすぅと、穏やかな寝息を聞きながら思ってもみないことを思ってみる。
 うっすらとクマすら浮かぶ柔らかそうな目の下。触ってみると予想通りふよふよとした感触が指に心地よかった。 起こさないようにマコトの隣の席に座り頬杖をつくと、正直な指はそのまま遠慮なく遊び始める。 こちょこちょと髪に触れて頬をつねって鼻をつまんで…。
 この、無防備な寝顔はMr.KKに新たな感情を掘り起こさせた。自分の中に初めてそれを発見した時はとても驚いた。 それ即ち嗜虐心。人形みたいな遠くの標的をいとも簡単に掃除する時も、やむを得ずナイフで相手の内臓をえぐって死に至らしめる時も、 何も感じはしないし感じたとしてそれは快楽とはかけ離れた感情なのに。 マコトに触って触って嫌がらせて、気配を消して近付いてわざと力を込めて抱きしめて、 そんなことをしたくて、欲求が脳を通る前に手は勝手に動いている。
 この感情を発掘したことが自分にとって何を意味し、これからにどう影響するか、そんなことは考えるのももはやナンセンス。

 再び軽くデコピンを繰り出すとついに不機嫌そうにひそめられる眉。
「ん…。」
あ、ヤベ起こしちまったか。
 ふっ、と開かれた瞼にすぐには焦点の合わぬ瞳。パチリと一度瞬いたところでがばっと頭を起こす。
「ごめ…っ俺寝てた!?」
急激に動いたことに対して頭痛でもしたの顔をかしかめて、あああーだのうううーだの、唸りながら己の不覚を呪っているらしい。 こめかみの辺りにゲンコツをくっつけて「折角遊びに来てんのに何やってんだ馬鹿俺〜…」などとブツブツ繰り返す。

 最近マコトはよく眠る。その一番の原因を。

「…KK?」
 仕方ないのだ、指先は勝手に動くのだから。寝起きの油断につけこんでいるという何となはなしの自覚はあれど、 滑り出した感情に最早思考など無くて。
 慌てたのかマコトは上体を引いて、椅子がたてたカタンという音だけが狭い空間に響いた。 本気で疲れているならそれなりの抵抗がある筈だし、流されるということは合意したも同然とみなして エスカレートしていく身体を引き止めたりはしない。
 首筋に顔を埋めた頃頭上に笑いの気配を感じて、手を止めたKKは顔をあげて目を細めた。
「何、笑ってんの。」
「何でもないよ。続きをどうぞ?」
「んだよテメエ。」
「や、最近多いなぁと思ってさ。」
「それ期待して来てんだろ?こーのインラン美容師。」
ここまで来ると何故か相手を少しでも動揺させた方が勝ちのような気がする。 加えてマコトはこういった単語を音声で捉え慣れてはいない。
「イ…!うっさいこのゼ(以下自主規制)…っ」

 こうしてマコトの目の下のクマは今日も取れることはなく。明日もKKの自宅に健やかな寝息が響くことになるのだろう。









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アンケート御礼リクエスト「だるーい、ゆるーい感じのKマコ」。
お待たせしてしまってスミマセン…素敵なお題なので気張って書こうと思ったら気張っちゃいけない内容でした(笑)。
…もう、ホントおちもやまもいみもない話で申し訳ない。書いてる本人は物凄く楽しかったー。
ありがとうございましたー!!

余談:最後のマコトが言おうとした頭文字ゼの単語、判った人手ぇあげてー! (裏行きにするか迷った挙句、生温く…)

050811


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