銀色と赤





「最近…スマイルの様子がおかしいと思わんか」

ユーリが言い出したのは夜半過ぎ。アッシュは畳んでいた洗濯物から目をあげた。
「…ユーリもそう思う?」
「うむ。」
「変ッスよね、やっぱ。どことなく。」
「急にスタジオに閉じ籠ったと思ったらギャンブラーZのアニメが始まっても出てこないし…。」
「ベース弾いてたかと思ったらぼーっとして、カレー作っても元気出ないし…まるで、」

「コイワズライ、だな」

「え!?」
突然のユーリの言葉に、アッシュは畳んだばかりのジャージを取り落とした。
ジャージの持ち主は眉をひそめて続ける。
「問題は、相手だが…」











最近、スマイルは曲を作っている。
とっておきの新曲。

「ヒッヒッヒッ…」
ソロのお仕事だから二人には秘密。
だって二人は仲が良すぎるから。

「う〜ん…?」
だから悩んでいても二人には理由が判らない。
堂々と煮詰まれる。

「ヒミツヒミツ…秘密は守られた〜♪」
ワザと悩んでるフリをしてみる。今夜はカレーかなぁ。


「スマイル、ギヤンブラーZ観ないのか?」
わぁお、ユーリが心配してくれてる。キレイ撮りで録画してあるから平気だよー。


こんな調子だから曲は凄い早さで完成してしまった。
新記録樹立。しかもなかなかの出来だよ?
でも当分悩んでるフリを続けよう。二人はいつ気がつくかな。











「大体予想はついている。アッシュ、お前だ。」
「…はい?」

きっとそうだ。
ずば抜けた音楽センスと料理の腕。
何より私には無いひたむきさと、優しさ。
スマイルが惚れてしまうのも頷ける。

「な、何言ってるッスか!!スマが俺なんか好きになるはずないッス!!…ユーリの方がまだ…可能性あるッスよ。」

超美麗吸血鬼。しかもカリスマボーカル。
性格に多少問題があるかも知れないが、慣れてしまえばそれは可愛いとしか思えなくて。
惚れるなって方が無理だっての。

「いや…絶対貴様だな。」
「ユーリッスよ。」

銀色の夜更かしに、くだらない言い争いが続く。











「じゃああのファンレターは何だったんだ!今更違うと言ったところで、」
「違うって言ってるじゃないッスか!!ユーリ、そんなに俺が信用できないっての!?」

痴話喧嘩中の空間の色って、赤いと思う。
割って入るのも面倒くさい。
でもさ、止めないと止まんないんだから本当このカップル僕の存在に感謝しなきゃね。僕って大人〜♪



「バカップルうざ〜い。」
「「スマイル!!」」

わぁおハモった。なかなか悪くないじゃないデュエット。今度提案してみよっかな。

「貴様アッシュと私、どっちが好きなのだ!?」
「ぶっ…!!」
…噴いちゃった。お食事中の方ゴメンナサイ。

「え〜と…?」











「僕は二人共大好きダヨ?おんなじ位。」
とりあえずにっこり笑って誤魔化してみる。

たまには自分達の阿呆さ加減を知ればいいのさ。まったく失礼しちゃうよねぇ。

「う…そういう好きじゃなくってね、スマ」
「ええいじれったい!!スマイル貴様アッシュの事が好きなのだろう!?とっとと告白して振られてしまえ!!さあ!!」

頭痛いなぁ…アッシュ君の歌じゃないけれど。

「うっさい馬鹿ユーリ!!」
「な…ば…!?」
「僕がそおぉぉんなに趣味悪く見えんのか!!」
何か言いかけたアッシュも睨んで牽制する。
「それからアッシュ君!?僕は僕より我が侭な恋人って我慢できないんだよね!!お分かり!?」











「…僕は二人共大好きだって言ってんのに。
 君らにとって僕との友情はそんなちっぽけな恋愛感情に劣るのかい!?
 …僕もう寝ようっと。じゃあね。」
冷徹な視線ひとつをお土産にして踵を返した。

ヒッヒッヒッ…って笑い出したかったのを必死で堪える。
さてどう出るかな?




「…ま、待ってスマイル!!」
ドシーン!!

…ちょっとこれは予想してなかったんだよね。
成程後ろから抱きつくかれるって腰にくる。
僕はいいんだよスリム&ストレンジャーだから。
でも流石に狼男に泣き付かれちゃちょっと、
「…痛いんだけど?」

「俺もスマのこと大好きッス!!スマイルの気持ち無視して悪かったッス!!!」











「ごめんなさい…」
「ヒッ…」

ああいけない我慢できないや。

「ック…ヒヒッ」
「…スマ?」
「アッシュ…貴様いい加減懲りたらどうなのだ。」
「ぇ。…っぎゃー!!笑ってるし!!」

大爆笑。
もう苦しくて苦しくて笑い声がヒッヒッヒッで保ててなかった。

「アッシュ君はいい子だねぇ…それに比べてユーリは?」
「………。」
睨まれちゃった。

「…ぁの、スマイル?」
アッシュ君は背中に捕まったまま。
「なぁに?」
離れたがってるけど、こんなシチュエーション逃せないよね。
わざと背中を預ける。スキンシップは僕の十八番だもの。

「…最近、元気ないッスよね?」











「…ね、ユーリ失言のお詫びに今夜アッシュ君貸して?」
「…駄目だ。」
「えー?じゃあね、皆でギャンZ観てリビングでザコ寝。」
「駄目ッスそんなの!!明日から仕事忙しいんスからちゃんと寝ねぇと!!」

知ってるよー。特にアッシュ君はソロ活動で忙しくなるから一旦自宅に帰るんだろ?
今夜を逃したら二人の夜は暫くお預け。

「ヒッヒッヒッ、じゃあユーリのベッドで川の字は?あ、勿論僕が真ん中ネ☆」




「……………………仕方ないな。」

エ?イイノ?イイノカナァ。

「ただし私は壁際だ…床に投げ出されちゃたまらんからな。」
「うう…。」
床に放り出されるのが決定したアッシュ君が唸った。

鈍くてちょっと優しい光に包まれて。安眠。そんな夜。

イイノカナァ。

こんなに幸せでイイノカナァ。








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川の字妖怪三人組。deuilは家族のようなもんだと思います。本当に。
仲良し。本当に仲良し。
微妙にラスネールネタ。そしてバカップル一直線なアスユリ。

元は屑かごに置いてあった、ケータイメール打ち文章なので読みにくいかもしれません。
☆の部分でお茶でもすすって、一呼吸おいてもらえばよろしいかと。

04.06.14「待ち惚け」から移動。


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