優しい雑音
前の仕事が早く終わった。今日のMr.KKは勝ち組だ。
ヘッドホンから流れる音楽はゆったりとした彼の歩調と同じリズムを刻み、土曜の午後の雑音と耳に優しくミックスされていた。
深まった秋の風が肉体労働に熱った身体をなだめる。通りを歩く人々と同じ様に足取りは軽く、KKが目指しているのはマコトの美容院だ。
「いらっしゃいませー!」
様子見をしに行ったらちょうど、大きなガラスばりのサロンの扉を開けて、愛想たっぷりに客を迎えているところだった。
空気を渡り耳に届く気持ちのいい声。良いタイミングだ。
マコトが店内に入り客のコートを預かったり何か語りかけたりしている様などを暫く眺めた。
くるくると、実に楽しそうに働いている。いつもと変わらないその姿にKKはニヤリと笑って、何だか愉快で堪らねぇなぁと思った。
時間を潰すのにコーヒーショップへ赴くか、それともゲームセンターへ行こうか。
そういえばお気に入りの新機種稼働は今日だったはず。思い出して迷わずゲーセンへ足を向けた。
それからたっぷり2時間程、KKはシューティングゲームを堪能して、
マコトの仕事が終わる頃には何度もやってこれ以上腕をあげるのは無理だろうと思っていたゲームでハイスコアを叩き出していた。
何なんだ今日は本当に。
上機嫌のままくわえていた煙草に火を付けた。
肺を煙で満たすと吐き出すのを繰り返し、満足いくまで吸うとゲーセン前の灰皿へ押し込む。
今年の夏から新宿区は路上禁煙だからな、歩き煙草なんてもってのほかだ。真面目な自分に自分で賛辞を贈りたい。
足を再び美容院へ向けて、陽が暮れてもまだまだ活気のある町中を歩く。
雑踏も雑音も好きだ。土曜日の暮れなんて一番混んでるんじゃないかね、
人が邪魔でロクに歩くこともできねぇが、それもちっとも気にならない。
もう長いこと、これが自分の生きてる世界だから。
裏原宿の角を曲がると、すっかり暗くなった中にポッと明るいあの美容院が見えた。
約束の時間だけどまだ客は引いていないのも、この店というかマコトにはよくあることで。
今度は店内から自分の姿が見える位置で眺めていた。その時判った。
ああ、あの場所とあいつとあいつの時間が、もう少ししたら全く自分のものになるのだ。
今だって、あの店の、ピカピカと輝く窓も床も自分が毎週磨きあげているものなのだ。今日の調子がいいのはそのせいだ。
KKはニヤリと笑った。
ちょうどカロロン、とサロンのドアベルが鳴って、相変わらずその音や客の声だとか後ろを通る車の音だとかが、
彼の耳に優しく混ぜられて届いていた。
マコトに会えると浮かれるストーカー気味KK。
清掃道具は美容院に毎週ちょこちょこ持ち込んで、置いてあるということにしといて下さい…。
あと05年8月から新宿路上禁煙の話は実話ですが、どの程度の範囲なのかとか調べてません…。
今日は土曜日。久しぶりのノークッション更新にしようとしたけどタグ打つ時無くて結局裏日記でした。
05.11.12(Sat)
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