DESIRE FOR CHOCOLATE FROM HIM



 素直にごめんを言えずに過ごす日々の、何と虚しいことか!

 今回は明らかに、自分に非があると思う。正直、今すぐ土下座してしまいたい。土下座した頭を革靴のヒールで踏まれても、仕方ないような気すらする。
「どうすっかなぁ……。」
 コンビニ帰りの路上で、アッシュは歩きながら頭をガシガシ掻いた。 はぁ…と、ため息を着いて買ったばかりの袋の中を覗く。 思わず買ってしまった15p程の小箱を見つめて、再びため息をつきながらそれを取り出す。 レジ袋独特のガサリという音が立つ。 そういえば今日はエコバッグも忘れてしまった。知らず苛立ちが募る。
 久しぶりに買ったら一瞬買うのを躊躇する程値上がっていた小箱の、パッケージを繰る。 そこで、このままでは今は使えないことに気付き、ついでに歩きながらなんて!と非常識さに気付き、らしくない自分に三度目のため息をついた。

 地球の、日本の、小さな自宅のベランダで。ライターと灰皿を探し出してから、数年前に絶ったはずの煙草を吸った。 バンドに入ってから、ユーリと出会ってから、結構な努力でもって守っていた禁煙も、パァだ。
「あーーー……。」
 我ながら馬鹿だったと思う。あのユーリが、あそこまで言ってくれたのに全く気付かずに。 本当に、あの時の自分はデリカシーが無さすぎた。最悪だ。
「そりゃ、怒って当然だけど……。」
 ため息を吐くのは好きじゃない。煙草の煙に混ぜて空に飛ばした。

 そもそも、ユーリの普段の態度が悪すぎるのも、原因のひとつじゃないか。 キッチンを爆破した前科もあるし、あの時彼は、二度と料理なぞしないとか言っていなかっただろうか。 大体、いちいち、態度が判りにくすぎるのも困るんだよ。
 優しくするのも、甘えてくるのも突然で、でも、滅多に見せてくれないからこそ、そういう部分が物凄く嬉しいことをアッシュは判っていた。 それから、自覚するとこの上なくどうしようもないと思うのだが、ユーリのそういうところがどうしようもなく、好きだということも。

 そうだ、ユーリは元からああいう性格で、普段は結構な努力をして自分への気持ちをかき集めて示してくれているのに。 「金欠ではなかったのか?」と自分を気遣ってくれた声が脳内で蘇る。
 もしかしたらこのところ、あの喧嘩の前から、俺は苛々していたのかもしれないなぁ…。
 荒んだ1月を思い出して、余裕の無さに自嘲の笑みを浮かべた。アッシュは申し訳なさでいっぱいになって、灰皿に煙草を休めると両頬をぴしゃりと叩いた。
 室内を振り返って、置きっぱなしになっている「材料」を確認する。
「……よし。」
 細く煙を上げていた煙草を、そのまま灰皿に押し付けて消した。あれから城には行っていない。あの夜、薄着で外出して、彼は大丈夫だったろうか。








「だから作るなんて言わずに、手首にリボン巻いて「私をあげる」とか言っておけば良かったのにサァ…。」

コトコトと、慣れない音が響く。

「意地っ張り。」
「五月蝿い。」
「ま、今回はお互い様みたいだけど?ちょっと、床に落ちてるヨ!」
「後で片付けるのだ!…………む?」
「…お湯で温めるんだヨ。」
「それくらい知っている!」

かちゃん、ボウルとボウルの触れ合う音が、耳障りだった。

「ヒッヒッヒ……またアッシュ君に謝らせる気?」
「黙れ。……うわっ!」
「あーあー。……君の所為で僕までチョコお預けになっちゃうじゃん。」
「うるさーい!うるさいうるさい!!私は悪くないからな!何だこれはちっとも固まらないではないか!もう知らん!」
「ユーリ、ちゃんと計量した?」
「……あ、当たり前だ!抜かりは無い!電子レンジに入れれば完成だ!」

カチカチと、時限爆弾のような音が、緊張を誘う。

「ちょ、変な匂いしてるヨ!ヤバいよコレ!」
「な、何だか凄いことに……っ!」
「きゃー!僕、知〜らない!ヒヒヒヒさいなら〜!」
「ま、待てスマイル!私も行くぞ!」
「ちょっとついて来ないでヨ、ヒッヒッヒッヒッヒ!!!」

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