右手に銃を、左手にモップを、
右手にハサミを、左手に櫛を、



耳には音楽、心に愛を、







「そろそろ二足歩行しなきゃ、社会復帰できなくなりそうだよー。」

KKが実は寒がりだということがこの連休で発覚したので、 マコトはKKが布団から出易い様に、目が覚めてまずエアコンをつけることにした。
温かい空気が流れ出し、これで加湿器があればなぁ、と乾燥しがちな自分の喉に、少し贅沢なことを思ったりした。
あーふ、と間抜けな音を出して欠伸をして、無理な体勢で腕を伸ばしてカーテンを少し開けた。
正午過ぎ、といったところだろうか。外はやけに眩しかった。
窓際の冷気にやられて手を引っ込める。
部屋全体が暖まるまで待てずに、布団にもぐり返った。

待ってましたと言わんばかりに、KKがすり寄って来る。ヒゲが当たって痛かった。
「暖房なんてつけなくてもこうしてりゃあったけぇのに。」
確かにくっついていればとても温かい。
「もうお昼だよ?」
「うー。」
「起きようよー。」
「んー。うるせぇなー…。」

抵抗する腕が抱きしめる力を増す。
マコトは諦めたようにKKの腕に頭を預け、大人しく目を閉じた。
寝入らないように注意しながら、この連休のことを思い返す。



抱き寄せて、キスして、溺れるように抱いて、くっついて眠って。
目が覚めたらどちらかが用意したものを適当に食べて。
穏やかに長い話をした後は、湯飲みが見当たらないと大騒ぎ。

シャワーを浴びたいとマコトが言えば、
おんぶオバケみたいに憑いていくKKがいて。
KKがリビングで日課の筋トレをする為にベッドを抜け出せば、
マコトが行ってきますのキスをせがんだ。

馬鹿みたいだって笑って、
馬鹿で悪いかって開き直った。

銃もハサミもモップも櫛も持たずに、

それこそ本当に、夢みたいに。



確実に終わりに近付く夢を感じながら、マコトは目を開ける。

「起きるぞ、本気で。明日っから仕事だ。」
「…キスしてくれたら起きてやらんでもない。」
偉そうな物言いに、鼻を思い切りつまんでやる。
「んがっ!?」
「誰がするかっ、あんたがキスだけで終る訳ないってことは、この連休で骨身に染みたんだよっ!!」
「随分な言い草じゃねぇか…俺は別にいいんだぜこのままでも。気持ち良いし。」
「う…。」

自分を抱きしめたまま寝に入ってしまいそうなKKに慌てて、
「しょーがないな…。」
本当にキスだけだぞ?と念を押してから、鼻をつまんでいた手を放して頬に添える。
穏やかに目を細めてキスを待つKKを、正面からじーっと睨む。

「おう、ホントに起きるぞ?疑り深い奴だな…。」
笑って、手入れ不足の髪を撫でられる。お返しに耳を軽く引っ張る。

「ちゃんとしろよ?」
「ハイハイ。お前がキスしてくれたらな。」
「着替えて、部屋片付けて、あそこの近くの神社、遅まきながら初詣に行こう? 夕飯も2人でちゃんとしたもん作って、食後にカプチーノ飲んで、えーっと…とにかく起きような?」
「…おう。」
「俺、夜には帰んなきゃ。……駄々こねるなよ?」
「こっちの台詞だ。」
「うん…。」
「…………キスしたら…。」
「うん。」
「ちゃんと起き上がって筋トレしてシャワー浴びて歯ぁ磨いて寝癖直して服着て出掛ける準備する。」
「はは、学校行きたくない小学生みたいな顔してる。」
「洗濯物も溜まってるし。」
「俺、干すの手伝うよ。」
「ん。」

「…ねえ?」
「ん?」
「……やりたかった寝正月ってこれで良かった?…俺、お前のリクエストに応えられたかな。」
「おぅ、充分な。」
「良かった。」







右手に銃を、左手にモップを、
右手にハサミを、左手に櫛を、



耳には音楽、心に愛を、

こうしてまた、夜には笑顔で現実に帰るんだ。
忙殺されそうな日常に。

だからその前に、
銃もハサミもモップも櫛も持たずにキスしよう?













お正月休みって年末の28日から正月5日くらいまでなんでしょうか…。
でも2人とも普通の会社勤め人じゃないしナァ(特にKKは)。
この後美容院は成人式ラッシュが待っているんでしょうね…(涙)。

鍋の底の方に溜まった甘酒におしるこ加えたくらい甘い仕様のお正月企画、如何でしたでしょうか。
何とか毎日更新できて良かったです…元旦とか遅刻してましたが。
こんなに甘いの続けざまに書いたの初めてだよ気持ち悪いよゾゾゾ。



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