午後の光溢れるリビングで、吸血鬼はソファに座っていた。

その日はとても暇な日で。
ユーリは城に籠って読書などをしていたが、午後になると本も読み終えて流石にすることがなくなってしまった。

こんなことならばもっと寝坊をすれば良かった。
馬鹿犬に慣らされたせいで早くに目が覚めてしまったではないか。

そんなことを考えながら。










アッシュがソロの収録だとか言って出掛けてから2週間経っていた。
今度は生意気にも海外のスタジオを使うとか言っていたから、戻るまでもう少しかかるのだろう。
思えば奴と知り合ってからこんなに長い間離れたのは初めてのことかもしれない。
今日はスマイルもいないし。本当に久しぶりに一人の時間を与えられ、もう少し有意義に過ごしてもいいはずなのに。


大嫌いな陽の当たる部屋で。
思い出したことといえば駄犬の戯れ事。




「何をしているのだ私は…。」
一人呟いて立ち上がる。

自室に戻る時通った廊下の静けさが、妙に耳についた。






























































「ユーリ!!そんな格好で寝たら風邪ひくッスよ!!」

「寝るんならちゃんとベッドで寝るッス!!」

「…ユーリ!!ユーリってば!!」






「…!!」

吸血鬼はガバッと身を起こした。辺りを見渡しても誰もいない。

いつの間にか寝てしまったようだな…。
何故アッシュの夢なんか…?

城に一人の吸血鬼は、自嘲気味に顔を歪めて、その後腹をたてたらしく眉間に皺を寄せた。



耳について離れないのだ。あいつの声が。



「静かだな…。」
静けさを破るために声に出して言ってみる。



声に出して…?



また、眉間に皺を寄せた。
いつかの夜のアッシュの声が蘇る。自分しかいない城の中。

長く長く、吸血鬼は沈黙していた。






仏頂面が、思案顔になって、赤い瞳は何の感情も映さなくなる。
何処か遠くを見るような、無表情のままユーリは口を開いた。

「―――………」

形の良い唇が、「あ」の形で暫く固まって、閉じる。

「………フン、バカバカしい」

しかし目は再び近くの物から焦点を外し、遠慮がちにさまよった後、なんとなくテーブルの一点を見つめた。

伏せ目がちに目を細めて、それからゆっくり目を閉じる。

長い睫毛が影を落とした。



















「……………アッシュ。」





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