「うげっ」

唐突に鳴り出した着メロ。
ガバっとベッドから起き上がって、落っこちそうになりながらKKはテーブルの上の携帯電話を掴んだ。

バシッ!!という音と共に電源を叩き切る。
流れていた着メロ。曲のタイトルは「Votum stellarum」。
嫌な汗が頬を流れた。

「う〜…」
もぞ、と布団の下でマコトが動く。
振り返ると、KKが慌てて跳ね除けた毛布の下から裸の肩が覗いていた。
滑らかで少し濃い目の肌に(冬になって大分落ち着いた薄さを取り戻したが)、 くっきりと浮かぶ肩甲骨が創り上げる綺麗な曲線に、数瞬見とれた。
目を凝らすと、昨夜KKがつけた赤い華があちこち、肌の上で咲いているのがわかる。

部屋の中は随分暗いが…一体何時頃なのだろう。
昨夜、食事もそこそこに抱き合って、体力に限界が来た頃、2人くっついて死んだように眠っていた。

…マジで今、何時なんだ。
カーテンもひいた薄暗い部屋の中では、時計も見えない。
携帯の電源を入れれば表示されるだろうが…。

唐突にオレンジの髪がさらりと動く。
思わず生唾を飲み込んだ程色っぽい(恐らく本人無自覚の)首の回し方でこちらを向いたマコトの顔は、 その気だるげな所作とは対照的な、険しいものだった。曰く、寒いから早くベッドに帰ってくるか毛布を掛け直すかしろと。

苦笑しつつKKはもそりと布団に入る。空腹が限界になるまで、当分起きるつもりはない。
冷気に晒された素肌に、体温のこもった布団が暖かかった。

「ヤベーよ携帯、お前のにも連絡来るんじゃん?」
互いに、あのはた迷惑なお祭り好きを思い浮かべながら、もそもそと布団の中で緩慢に蠢く。
あの人は実のところかなりの寂しがり屋なのではないかと、マコトは思った。
「俺ケータイ置いてきたもん。」
「マジか。」
「マジ。Kが言ったんだろ?ケータイうるさいからって。」
「…お前、服着といた方がいいんじゃね?」
「うぇ?」
「や…アイツの性格からして、」

「ほっほぉ〜う?お前ら生意気にも俺を無視して、俗世離れのつもりかオイ?」

「うわあああっ神様来るの早いよ!!!」
「ッテメこの、MZD!!住居不法侵入で訴えるぞっ!!てか急に現れんなって言ってんだろ!!!!」





こうしてマコトの予想は外れた。
初日にして2人は外出する羽目になった。
MZD主宰、忘年会へ。いやいやお前ら紅白歌合戦の準備とかしなくていいのか。

夜中には解放してやるし、後の4日間はぜってぇ邪魔しねーからよーむしろ何も起こらねえように見張っててやっから、 今日はつきあえよ。携帯の電源なんて入れとくのが悪ぃぜ、なあマコト? やるんならもっと完璧にやれよおっさんこういうとこ抜けてるんだよな〜だから仕事で怪我が絶えねんだよ。
道すがら神はのたまった。

KKは電源を切り忘れた己の不覚を大いに反省した。










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