いつも喪中のつもりでいた。
そんな習慣は皆無に等しかった。





「おお〜!?」
「ん〜?…どした?」

ドアの外から微かな足音。
耳の良いKKには、それが一般人のものなのか、玄人のものなのか、
男か女か、相手の職業、大体の年齢等といったものまで、
神経を研ぎ澄ませていれば判るらしい。

「や…年賀状…届いてた。」
「はぁ…それが何?」

大晦日は結局、夜明け近くまで起きていて(何をしていたのかはご想像に任せるとして)、 爽やかな元旦の朝に眠りこけていたところ、KKがするりとベッドを抜け出した。
その気配でマコトも目を覚ます。

マコトはベッドの上をごろごろと転がり、KKのパジャマの裾を引っ張る。
「…………。」
じぃっと視線を送る。
「…んだよ。」
「年賀状にKKを取られてマコトさんご立腹よー。」
「ぶっ…!!」

くくくくく、前屈みになって背中を震わせKKが笑う。
「わ…わはは…!!」
「むー。」
「年賀状にまで嫉妬すんなよ。」
ぐしゃぐしゃ、伸びてきた手がオレンジ色の髪をかき混ぜる。
そのままベッドに斜めに腰掛けて、おもむろにハガキを見る。
下からマコトが覗く。

「…誰から?」
「…………じーさん。」
ぺらり。
マコトの方へハガキが降りる。

「…クソ神。」
ぺらり。
「リエっこ、さなえ、…誰だベルにこんな日本的習慣を教えたのは。つうか住所教えてねぇハズなんだけどな…。」

ぺらりぺらり。去年は無かった繋がりと習慣が、

「…ぅげ。」
「ん?何その反応。」
「メイ…。」
「今月はジャニュアリーじゃん?どれどれ、おお!!キスマーク!!かっこい〜!!」
「ムラサキ。おか…ハニー…。六…。」
「はっ!!六さん!?達筆!!Kその年賀状、高く売れちゃうね!!」

ぺらりぺらり。枚数になって降って積もる。

「わんころ吸血鬼透明人間…。」
「一枚で三人!?」
ぺらり。

「マコト。」
ぺらり。

「あーそれ店のやつ使いまわしで悪ぃ。」
「なんで。」
「や、だって俺絵心とか無いし、お客さん用の一言メッセージ添えるだけで時間めっちゃ取られちゃってさー。」
ああそうか、店始まったら成人式ラッシュなんだろうな…そんなことを思い出して少しうんざりしそうになりながら、 マコトは答えた。
「そうじゃなくて、元旦、俺と過ごすって判ってただろ…?」
「だって出したかったから。」

いつも喪中のつもりでいるあなたに。
昨年はお世話になりました明けましておめでとう今年もよろしくねと。

「…ったく。テメェらどういう風の吹き回しだっての。」
「ちゃんとお返事頂戴ねー。」
「あ?これって返さなきゃなんねーもんなのか!?」
「あったり前だろ!?礼儀デスヨ礼儀。」
「ジジイにもか。」
「Gさんにも。ていうかもしかして初めて貰ったの!?…何、ヘルクリーンって年中喪中なの?」

ギクリ、と心が震えた。

清掃会社ですから。
暮れたって明けたってめでたいことなんて何もなく。
どうでもいい時間が過ぎていって、
どうでもいい人間が過去へ置いていかれて、
そんな清掃会社ですから。



「そんなつもり、無かったんだけどな。」



まったく皆して、
「一体何のつもりだよ…。」

数枚の年賀状をまとめてみると、確かな厚み。
手に持ってKKは、遅くなってもいいからハガキを買って来て、返事を出すか、と心に決めた。










明けましてオメデトウゴザイマス。
今年もKマコとアスユリとポップンにまみれた生活でありたいです。
宜しくお願いいたします。


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