暗い闇から目を上げると、そこは光溢れる丘だった。

 狼男は欠伸をひとつ。あまりの陽気に眠気を誘われ、目をゴシゴシこする。 欠伸で浮いた涙は拭われるも、再びじわりと溜まってトロン、と視界を溶かした。
 眠い。目を開けていられない。







 毛玉が2個。ユーリは最初そう思った。
 その少年は、狼の仔とたわむれて、ころころと地面を転がっていた。

 最初にユーリに気付いたのは、仔狼の方だった。 ぐるる、と喉を鳴らすと姿勢を低くして威嚇するようなポーズを取った。 かと思うと、ユーリが一歩踏み出した途端、きゃん、と吠えて一目散に逃げ出した。
「あっ……!」
 逃げた仔狼にびっくりして少年は一瞬振り返ったが、共に逃げずにその場に留まった。 恐る恐るユーリを見上げる。

真っ赤な目が、ばちりと音がしそうな程かち合った。

そのままじーっと見つめられ、流石のユーリも変な気持ちがして咳払いをした。 少年は慌てて下を向く。
 土で汚れたシャツに短パン、素足。 深緑色の髪を後ろでひとつに結っている。 年恰好は人間の子供でいうと7、8歳といったところか。 丸みを帯びた頬から、尖った耳まで赤く染めて、もじもじと手指を動かしている。 先程狼とじゃれていた時に笑った口から覗いた牙と、この尖った耳、そして何より先程の、

「あの、目…赤いの、お兄さんも魔物なんスか…?」
「ああ…そうだ。」
突然の問いに、ユーリは答えた。そして尋ね返す。
「お前は、ワーウルフだな。」
「そうッス。」
相変わらず、少年は下を向いたままもじもじと手を動かしている。

「…顔を上げろ。人と話しているのに、失礼ではないか。」
ぱっと顔が上がる。少年の大きな目が、まじまじとユーリを見つめ返す。半開きの口が何とも幼い。
「人の顔をじろじろ見るな。」
「だ、だって!」
慌てて目を逸らした少年は、思わず大きな声で反論した。 ちらりとまたユーリを見て、ふにゃりと笑って言った。

「こんな綺麗な人、初めて見たッス。」

その笑顔が、木漏れ日が目に刺さった時のようにまぶしくて、吸血鬼は眩暈を覚えた。



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