「お兄さんが探している花、なんて名前なんスか?」 5 「そういえばヴァンパイアって、お日様の光を浴びると灰になっちゃうって……。」 背の低い藪がガサガサ言う道で、少年は尋ねた。 「吸血鬼の行きたくない方向」へばかり案内され、周りの木々が大分まばらになってきた。 午後の日差しはさんさんと、吸血鬼を照らしている。 「ふむ……、そうだな。」 ユーリは肩をすくめてみせた。 「どうだ、私は灰になっているか?」 ブンブンと、狼男の少年は首を振る。 「そういうことだ。」 ほぇーっと、三度少年は溜息をついて頬を赤く染めた。 格好良いッス……呟かれ、ユーリは密かにふふんと笑った。 ふいに、少年の鼻がぴくりと動いた。 ふんふん、とあたりの匂いを嗅いで立ち止まる。 「吸血鬼さん、」 と、ユーリを呼び止めた。 そういえばもう30分程も一緒に歩いたのに、お互いの名を知らなかったのだな、とユーリは思った。 「その藪の向こうから、甘い匂いがするッス。」 にこ、と少年は笑った。 「そうか。」 ユーリは藪を見つめた。ようやく目的地にたどり着いたようだ。 「案内、ご苦労だったな。」 礼を述べるべく振り返ると、そこにはもう少年の姿は無かった。 あとにはただ、日だまりだけが静かに残っていた。 |