「お兄さんが探している花、なんて名前なんスか?」



「そういえばヴァンパイアって、お日様の光を浴びると灰になっちゃうって……。」
背の低い藪がガサガサ言う道で、少年は尋ねた。

 「吸血鬼の行きたくない方向」へばかり案内され、周りの木々が大分まばらになってきた。 午後の日差しはさんさんと、吸血鬼を照らしている。
「ふむ……、そうだな。」
ユーリは肩をすくめてみせた。
「どうだ、私は灰になっているか?」
ブンブンと、狼男の少年は首を振る。
「そういうことだ。」

 ほぇーっと、三度少年は溜息をついて頬を赤く染めた。 格好良いッス……呟かれ、ユーリは密かにふふんと笑った。

 ふいに、少年の鼻がぴくりと動いた。
ふんふん、とあたりの匂いを嗅いで立ち止まる。

「吸血鬼さん、」
と、ユーリを呼び止めた。
そういえばもう30分程も一緒に歩いたのに、お互いの名を知らなかったのだな、とユーリは思った。

「その藪の向こうから、甘い匂いがするッス。」
にこ、と少年は笑った。

「そうか。」
ユーリは藪を見つめた。ようやく目的地にたどり着いたようだ。
「案内、ご苦労だったな。」
礼を述べるべく振り返ると、そこにはもう少年の姿は無かった。

あとにはただ、日だまりだけが静かに残っていた。


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