眠りから目を覚まさせる方法は、たったひとつ。 7 どこまでも続くと思われる程深い森が、不意に途切れた。顔を上げると光がまぶしい。 踏み出した足が、柔らかく受け止められたと思ったら、そこは芝生に覆われたゆるい坂になっていた。 「……いつもの広場ではないか。」 城の近くの。ユーリは呟きながら斜め上を振り返る。森の木々の向こうに黒々とした城の塔が見えた。 「……眩しい。」 「ユーリ、あれ!」 「ああ。」 「見ぃ〜つけた☆ダネ!ヒヒッ」 眩しさの原因は、満開の花だった。 広場の真ん中、低い丘の頂上で。大きな木が満開の花を咲かせていた。 薄桃色の花びらが光を受けて、全体がぼんやり光っているように見える。 ひらり、と風に舞う花びらは小さいのに、何万と咲いた花々がその存在感を支えていた。 ユーリはやはり、目を細めた。眩しいのは好きでは無いが、美しいものは大好きだ。 今年は一段と、綺麗に咲いているように思えた。 木の根元まで近付いていくと、幹に緑色の大きな苔が生えているように見えた。 「あーあ、やっぱり寝ちゃってる。」 と思ったら、それは木にもたれて眠っている我らが狼男の頭だった。 透明人間は呆れて、狼男の肩をゆすった。 「おお〜いアッ君!起きてよぅ〜お腹減ったよぅ〜!」 が、狼男の頭に積もった花びらが地面に落ちただけだった。 「どけ、スマイル。」 言ってからユーリは拳を握った。迷うことなく狼男の頭を目がけて振り下ろす。 「起きろ馬鹿犬!」 ごん、という音が静かな広場に響き渡った。 それでも狼男は目を覚まさない。 まぶたも耳もぴくりとも動かず、ただ静かに寝息をたてるだけ。まるで目を覚ます気配が無い。 「はぁ……。このままあの子供と一緒になるというのも、悪くはないがな。」 「……何の話?」 「このまま永久に寝かせてやろうか、という話だ。」 「イヒヒヒヒ、かわいそーだよー。」 「まあ、どちらにせよ喧しいしな。」 「うん?起こしてあげよーよ。僕お腹減ったし。」 スマイルは、狼男の傍らに放置されているポットとバスケットを見つめた。 「そうだな。仕方ない、」 深く溜息をついてから、ユーリはアッシュの頭に手をおいた。 陽の下で寝ているせいか、緑色の髪は暖かい。それをくしゃ、となでる。 そういえば、先程会った子供の髪は、目の前のものより幾分緑色が濃かった気がする。 アッシュが目を覚ましたら尋ねてみよう。 そしてユーリは名前を呼んだ。愛しい狼男の名を。 |